痕。

それから、オトコの車に乗り家を出る。

同僚一人拾ってパチンコ屋・・・じゃない、飲み会の会場へ行く。

タバコを切らしたことを忘れ買いに行ってくると云うと

「店の人に頼めばいいじゃない、だって、隣に座れなくなるよ」

とオトコが同僚を目の前に堂々と云う。

「大丈夫だよ。壁から一人分空けて座っていてくれればそこに入るから。」

「あっそっか!わかった。」とオトコが頷く。

店を出てコンビニに向かい、自分のタバコ2つと、オトコのタバコを3つ買う。

戻ってくる途中オトコから電話。

「ドコに居ます?」

「もう店の前まで来ましたよ。」

「いちばーん最初にこの店に来た時に座った座敷の一番奥に居ますよ。」

「あ、わかりました。ありがとう。」

「店入って左ですよ。その奥ですよ。」

「うん、わかりました。」そこまで方向音痴じゃないよ思いながら微笑み電話を切る。

店に入ってすぐ

「あれ、どっちだっけ。」

・・・アホなのかオレは。

左ってこっちだよなと左に向かい、とりあえず、ずーっと左まで行った所

オトコが見えた。

微笑むオトコ。

ホッとするオレ。

 

オトコの隣に座り、ほどなく残りの同僚が全員到着した。

飲み会なんて口実なんだから、

早めに切り上げましょうねと前日帰り際に話していた。

が、いざ飲み会が始まると同僚と大いに盛り上がるのだ。

今年から入ってきた、創業者一族の元自宅警備員が堅物を気取っていて

いけ好かない話や、ドラマの話、

店の従業員が若い場合は声をかけ、年増だと見向きもしない同僚に

お前は酷いやつだ(本当に酷いやつだ)と煽ったり。

月一の飲み会はとても楽しい。

 

17時開始。20時30分には、この人数でこんなに食べるものなのかというほどの

皿とジョッキが山となり、散会した。

また来月ね!と確認し合い、同僚一人を家に送り届け

オトコとまた二人だけになる。

自宅付近を通りかかり「あ、まだ帰しませんからね。」とオトコが笑う。

(帰されても困るよ)と思いつつ、さて酔いを覚ますにどうしたら良いかと考える。

 

ホテルに着き部屋に入る。

「シャワー浴びてきます。」と、云ったのはオトコ。

オレは浴びなくていいんだろうか??????????????

テレビではドラマが流れている。

テレビを見ながらオトコを待つ。

そうだ、トイレに行っておこうと思ってトイレのドアをあけると、

 

ちょっと待ってよ、風呂とトイレの間の壁が

壁じゃなくてすりガラスでしかも

すりガラス部分がボーダー状になってるじゃないよ!

これじゃぁ風呂に入ってるオトコから丸見えになるじゃないよ!

こっちからもオトコが丸見えになるじゃないよ!!

とんでもねぇ事するんじゃないよトイレぐらいゆっくり行かせてよ

みんなそんな乱気なの!?!?ねぇ!?

 

はい、トイレ却下。

いい、別に行かなくても。

 

ベッドでタバコを加えて寝転がっているとオトコがシャワーを終えて出てくる。

オレは身を起こし座りなおしてオトコを見る。

「寒い!!」

は・・・

寒いって・・・

「お風呂入ったら良かったのに風邪引くでしょうよ!!」

「だって・・・」

「ん、んじゃぁ一緒に入ります?」

「え!ホントですか?」

「ハイ」

「今日はやめときます。」

寒いんじゃなかったのか・・・。

今思えば、何でオレはシャワーを浴びなかったのか??

次があるなら、次はシャワーを浴びよう。

 

腰にタオルを巻いたオトコがベッドに横になりタバコを吸う。

左腕の刺青が波を打った。

 

タバコが無くなると、湿気をまだ含んだオトコの手が

オレの頬に伸びてくる。

本当に寒かったのか、皮膚の表面が冷たい。

オトコの頬に左手をあて、親指で数回頬と唇を撫でた後

右手も頬にあて、オトコの顔をすくい口で口を塞ぐ。

上唇と下唇を数回はさんだ後、オトコを見つめる。

いつもの「オレが欲しいと思う目」が、そこにはあった。

なんだかとても、泣きたい気分になったが、

なぜ泣きたいのか意味がわからなかったので、

そんな感情なかったことにすることにした。

 

酔いのせいか、残念ながらここからの記憶が曖昧だ。

 

いつの間にか、服は何も着ていなかった。

オトコがオレを覆っていた。

ひっくり返され、這い、腰を上げる。

これまたピンチな格好だ。

這った時に腹が下を向くが、肉が下がったらどうしたら良いのだ!!

オトコと寝るようになってから毎晩筋トレをして

腹筋の両端には筋が見えるまでになったが、ニュートンは偉大だ。

気を抜けば下側になった腹部は、どうなるものか判ったものではない。

腰を反らし腹を伸ばしてみる。

 

息から音がする。

 

フッと圧力が抜け、背中の所々が温かく湿ったのを覚えている。

 

 

この場合もうどうしようもないのでそのままで居ると

「ちょっと待っていて下さいね」オトコが云う。

さわさわと紙が背中を撫でる感触がし、

「すんごいクビレですね。」とオトコがオレを褒める。

・・・褒めたのか???

 

日々鍛えた成果のような気がした。

 

3つ年下のオトコが、年上好みとはいえ、

過去に相手にしてきた女が

オレよりも年上である可能性と年下である可能性を考えると

まったくもって気が抜けない。

絶対気が抜けない。

オトコと寝るために、毎日の飲酒を止め、飲酒の時間を筋トレにあてた。

涙ぐましい努力だ。

…何やってんだオレ。

 

ふぅ…と息をつきベッドに横になるオトコ。

オトコの脇腹の辺りに顔を置き、オトコの腹に唇を付ける。

軽く吸う。

軽く、噛む。

 

噛んでも大丈夫ですよと云うので

ふざけた感じでオトコの胸の上を少し強く噛む。

少し、歯に力を込める。 

「いたい~~~」とオトコが云うのですぐ歯を離す。

ごめんね。と笑いながら噛んだ皮膚を撫でる。

 

そしてまた、腹のあたりに唇を付け、軽く吸う。

「オレ、黒いから痕つかないんですよ?」

と、云われると、何が何でも痕をつけたくなり、

臍の辺りの柔らかい部分を優しく長く吸う。

痕がつく。

「痕、つきました。」オレが笑い、オトコも「アレ?」と笑う。

それから、脇腹を下から順に吸い

胸のあたりまで痕を残し続けた。

 

それから、他愛のないにも程がある話をし

11時30分。

「そろそろ出ましょうか?」オトコが云う。

そうだ、現実に戻らなければ。

ヤツが何時で帰ってくるのかわからないじゃないか。

それに、ホテル代はいつもオトコが出してくれる。

前は車の中だったから、もう少し。と言っていたが、

現時点でのもう少しには銭がかかる。

これで、最後でなければいいな。と思いながら

「はい」

と言い、支度をし

テレビを消す。

オトコが「テレビ消したりする人初めてみたんですけど?」

と云う。

布団をひとまとめにしておけば、それもまた初めてみる人なのだそうだ。

一体どんな女と寝て来たのかは知らないが、

そういうことをしないというだけで、

よほどガサツか

女にとってどうでもいいオトコの一人であったのだろうなと思った。

 

オレの場合は、自分さえよければ良い性格なので、

自分がそうしたいからそうする。それだけなのだ。

会いもしないホテルの清掃の人にだらしないと思われたくないというのもあるし

金を払っているのだから、何でもやりっ放しでいいだろうという考えが嫌いなのだ。

 

精算は、やはりオトコがしてくれる。

今回は私が。と云うと、大丈夫ですよとオトコが笑う。

こういう時は素直に従う。

大人可愛い女子でありたいのだ。

 

オトコの車に乗せてもらい、家に着く。

今まで別れ際に唇を重ねようと身を寄せるのは

必ず、オレの方だったが、

今回は、何故かオトコが身を寄せてきて、唇を重ね

抱きしめてくる。

 

何かが、進歩したような気がして嬉しかった。

 

「月一だと、長いから、また近いうちに合いましょう?

連絡しますんで既読スルーしないでくださいね。」とオトコが笑う。

 

「絶対しませんよ。待ってますね。」オレが笑う。

 

車を降りる。

 

オトコが「じゃぁね~!!」と笑顔で手を振る。

 

オレが「じゃぁ!ありがとう!」と笑顔で手を振る。

 

今回から別れ際が変わった。

 

こうした関係が始まって半年。

 

別れ際が

「おつかれさまでした」から「じゃぁね!」に変わった。

 

この変化をオトコが気づいているのかいないのかわからないが、

 

もし、気づいているなら、ウマくやって欲しい。気を拔かないでほしい。

 

 

もし、次にあった時に「おつかれさまでした」だったら

今回のはきっと気まぐれか勘違いということにしよう。

 

自分を守るため、傷つかないようにするため

変な分析に心を騒がせ、喜び期待するのをやめよう。

この変化に気付かなかった事にすれば

この先何があろうと大丈夫。

だってオレは何も気づいていないのだから。

 

 

オトコを見送り

玄関の重い重いドアノブに手をかけた。