痕。

それから、オトコの車に乗り家を出る。

同僚一人拾ってパチンコ屋・・・じゃない、飲み会の会場へ行く。

タバコを切らしたことを忘れ買いに行ってくると云うと

「店の人に頼めばいいじゃない、だって、隣に座れなくなるよ」

とオトコが同僚を目の前に堂々と云う。

「大丈夫だよ。壁から一人分空けて座っていてくれればそこに入るから。」

「あっそっか!わかった。」とオトコが頷く。

店を出てコンビニに向かい、自分のタバコ2つと、オトコのタバコを3つ買う。

戻ってくる途中オトコから電話。

「ドコに居ます?」

「もう店の前まで来ましたよ。」

「いちばーん最初にこの店に来た時に座った座敷の一番奥に居ますよ。」

「あ、わかりました。ありがとう。」

「店入って左ですよ。その奥ですよ。」

「うん、わかりました。」そこまで方向音痴じゃないよ思いながら微笑み電話を切る。

店に入ってすぐ

「あれ、どっちだっけ。」

・・・アホなのかオレは。

左ってこっちだよなと左に向かい、とりあえず、ずーっと左まで行った所

オトコが見えた。

微笑むオトコ。

ホッとするオレ。

 

オトコの隣に座り、ほどなく残りの同僚が全員到着した。

飲み会なんて口実なんだから、

早めに切り上げましょうねと前日帰り際に話していた。

が、いざ飲み会が始まると同僚と大いに盛り上がるのだ。

今年から入ってきた、創業者一族の元自宅警備員が堅物を気取っていて

いけ好かない話や、ドラマの話、

店の従業員が若い場合は声をかけ、年増だと見向きもしない同僚に

お前は酷いやつだ(本当に酷いやつだ)と煽ったり。

月一の飲み会はとても楽しい。

 

17時開始。20時30分には、この人数でこんなに食べるものなのかというほどの

皿とジョッキが山となり、散会した。

また来月ね!と確認し合い、同僚一人を家に送り届け

オトコとまた二人だけになる。

自宅付近を通りかかり「あ、まだ帰しませんからね。」とオトコが笑う。

(帰されても困るよ)と思いつつ、さて酔いを覚ますにどうしたら良いかと考える。

 

ホテルに着き部屋に入る。

「シャワー浴びてきます。」と、云ったのはオトコ。

オレは浴びなくていいんだろうか??????????????

テレビではドラマが流れている。

テレビを見ながらオトコを待つ。

そうだ、トイレに行っておこうと思ってトイレのドアをあけると、

 

ちょっと待ってよ、風呂とトイレの間の壁が

壁じゃなくてすりガラスでしかも

すりガラス部分がボーダー状になってるじゃないよ!

これじゃぁ風呂に入ってるオトコから丸見えになるじゃないよ!

こっちからもオトコが丸見えになるじゃないよ!!

とんでもねぇ事するんじゃないよトイレぐらいゆっくり行かせてよ

みんなそんな乱気なの!?!?ねぇ!?

 

はい、トイレ却下。

いい、別に行かなくても。

 

ベッドでタバコを加えて寝転がっているとオトコがシャワーを終えて出てくる。

オレは身を起こし座りなおしてオトコを見る。

「寒い!!」

は・・・

寒いって・・・

「お風呂入ったら良かったのに風邪引くでしょうよ!!」

「だって・・・」

「ん、んじゃぁ一緒に入ります?」

「え!ホントですか?」

「ハイ」

「今日はやめときます。」

寒いんじゃなかったのか・・・。

今思えば、何でオレはシャワーを浴びなかったのか??

次があるなら、次はシャワーを浴びよう。

 

腰にタオルを巻いたオトコがベッドに横になりタバコを吸う。

左腕の刺青が波を打った。

 

タバコが無くなると、湿気をまだ含んだオトコの手が

オレの頬に伸びてくる。

本当に寒かったのか、皮膚の表面が冷たい。

オトコの頬に左手をあて、親指で数回頬と唇を撫でた後

右手も頬にあて、オトコの顔をすくい口で口を塞ぐ。

上唇と下唇を数回はさんだ後、オトコを見つめる。

いつもの「オレが欲しいと思う目」が、そこにはあった。

なんだかとても、泣きたい気分になったが、

なぜ泣きたいのか意味がわからなかったので、

そんな感情なかったことにすることにした。

 

酔いのせいか、残念ながらここからの記憶が曖昧だ。

 

いつの間にか、服は何も着ていなかった。

オトコがオレを覆っていた。

ひっくり返され、這い、腰を上げる。

これまたピンチな格好だ。

這った時に腹が下を向くが、肉が下がったらどうしたら良いのだ!!

オトコと寝るようになってから毎晩筋トレをして

腹筋の両端には筋が見えるまでになったが、ニュートンは偉大だ。

気を抜けば下側になった腹部は、どうなるものか判ったものではない。

腰を反らし腹を伸ばしてみる。

 

息から音がする。

 

フッと圧力が抜け、背中の所々が温かく湿ったのを覚えている。

 

 

この場合もうどうしようもないのでそのままで居ると

「ちょっと待っていて下さいね」オトコが云う。

さわさわと紙が背中を撫でる感触がし、

「すんごいクビレですね。」とオトコがオレを褒める。

・・・褒めたのか???

 

日々鍛えた成果のような気がした。

 

3つ年下のオトコが、年上好みとはいえ、

過去に相手にしてきた女が

オレよりも年上である可能性と年下である可能性を考えると

まったくもって気が抜けない。

絶対気が抜けない。

オトコと寝るために、毎日の飲酒を止め、飲酒の時間を筋トレにあてた。

涙ぐましい努力だ。

…何やってんだオレ。

 

ふぅ…と息をつきベッドに横になるオトコ。

オトコの脇腹の辺りに顔を置き、オトコの腹に唇を付ける。

軽く吸う。

軽く、噛む。

 

噛んでも大丈夫ですよと云うので

ふざけた感じでオトコの胸の上を少し強く噛む。

少し、歯に力を込める。 

「いたい~~~」とオトコが云うのですぐ歯を離す。

ごめんね。と笑いながら噛んだ皮膚を撫でる。

 

そしてまた、腹のあたりに唇を付け、軽く吸う。

「オレ、黒いから痕つかないんですよ?」

と、云われると、何が何でも痕をつけたくなり、

臍の辺りの柔らかい部分を優しく長く吸う。

痕がつく。

「痕、つきました。」オレが笑い、オトコも「アレ?」と笑う。

それから、脇腹を下から順に吸い

胸のあたりまで痕を残し続けた。

 

それから、他愛のないにも程がある話をし

11時30分。

「そろそろ出ましょうか?」オトコが云う。

そうだ、現実に戻らなければ。

ヤツが何時で帰ってくるのかわからないじゃないか。

それに、ホテル代はいつもオトコが出してくれる。

前は車の中だったから、もう少し。と言っていたが、

現時点でのもう少しには銭がかかる。

これで、最後でなければいいな。と思いながら

「はい」

と言い、支度をし

テレビを消す。

オトコが「テレビ消したりする人初めてみたんですけど?」

と云う。

布団をひとまとめにしておけば、それもまた初めてみる人なのだそうだ。

一体どんな女と寝て来たのかは知らないが、

そういうことをしないというだけで、

よほどガサツか

女にとってどうでもいいオトコの一人であったのだろうなと思った。

 

オレの場合は、自分さえよければ良い性格なので、

自分がそうしたいからそうする。それだけなのだ。

会いもしないホテルの清掃の人にだらしないと思われたくないというのもあるし

金を払っているのだから、何でもやりっ放しでいいだろうという考えが嫌いなのだ。

 

精算は、やはりオトコがしてくれる。

今回は私が。と云うと、大丈夫ですよとオトコが笑う。

こういう時は素直に従う。

大人可愛い女子でありたいのだ。

 

オトコの車に乗せてもらい、家に着く。

今まで別れ際に唇を重ねようと身を寄せるのは

必ず、オレの方だったが、

今回は、何故かオトコが身を寄せてきて、唇を重ね

抱きしめてくる。

 

何かが、進歩したような気がして嬉しかった。

 

「月一だと、長いから、また近いうちに合いましょう?

連絡しますんで既読スルーしないでくださいね。」とオトコが笑う。

 

「絶対しませんよ。待ってますね。」オレが笑う。

 

車を降りる。

 

オトコが「じゃぁね~!!」と笑顔で手を振る。

 

オレが「じゃぁ!ありがとう!」と笑顔で手を振る。

 

今回から別れ際が変わった。

 

こうした関係が始まって半年。

 

別れ際が

「おつかれさまでした」から「じゃぁね!」に変わった。

 

この変化をオトコが気づいているのかいないのかわからないが、

 

もし、気づいているなら、ウマくやって欲しい。気を拔かないでほしい。

 

 

もし、次にあった時に「おつかれさまでした」だったら

今回のはきっと気まぐれか勘違いということにしよう。

 

自分を守るため、傷つかないようにするため

変な分析に心を騒がせ、喜び期待するのをやめよう。

この変化に気付かなかった事にすれば

この先何があろうと大丈夫。

だってオレは何も気づいていないのだから。

 

 

オトコを見送り

玄関の重い重いドアノブに手をかけた。

 

 

素面が苦手。

土曜日、オトコが初めて家に来た。

 

オトコとは知り合って4年。会社の同僚だ。

盆と正月の一晩だけほんの数回唇を合わせるだけの関係だった。

それ以上の関係への誘いを全て断ってきたのだが…

去年の終わりに陥落してしまった。

理由はわからないが、多分何となく、

いいかなと思ってしまったというやつなのだろう。

 

それから現在までは仕事以外

月一で会っている。

 

 

土曜日の仕事中に買い物に行く用事があって

オトコを連れて二人で出たのだが

同僚のおっちゃんに「そうだ!残っていた発泡酒をあげよう!」という

なんか安いディオニュソスが降臨してきた気分になった。

「家に寄ってイイ?」と聞くと

「いいですよー!実は、はっきりした場所わからなかったんですよ。」と云うので

家に寄った。

寄ったはイイが…

OH~ジーザス!!!

なんてオレは馬鹿なんだ!!!

家が汚い・・・。

ディオニュソスのバカヤロウ。

もっと家が綺麗な時に降臨してこいよもう!!!!

 

猫の毛、午前中の間に猫が食った飯の後…

漂う毛毛毛毛毛毛毛。

ああーorzへたこいた~。。

何で何も考えず家に寄るなんて馬鹿なことを考えたのか…。

オレのオトコは、よくよく物を見る人なのだ。

あーーーーーー。

 

さっさと発泡酒を袋に詰めて家を出る。

 

思い出したくもない汚点。書くのもこのぐらいにしておこう。

 

そして、仕事終わって午後。夕方からは会社の飲み会だ。

いつもはオトコと近くのコンビニで待ち合わせ、乗せて行ってもらうのだが

この日は暑かったから歩くのが嫌で、ヤツが帰ってこないのをいいことに

家まで迎えに来てもらうことにした。

約束は15時30分。

13時に会社を出て、ホームセンターで大きめの植木鉢と土を買い

家に戻り観葉植物の植え替えをしつつルンバ起動!

片付けセンサーフル発動!怒涛の勢いで片付け掃除。

よし、たぶん完璧だ!

行かないとは思うが居間から寝室に続く廊下も片付け、

行かないとは思うが寝室も掃除。

開けっぱなしのウォークインクローゼットも見れるようにした。

さて、次は風呂だ。

風呂に入って15時。よし、あと30分あれば顔も出来上がるだろう!

化粧水、なんちゃらっていう大変素晴らしい実力を持つジェルを塗り

下地塗ってファンデ塗って、

マスカラ、二重の大きさの調整・・・ま で お わ っ た と こ ろ

 

ぴんぽーん

 

 

うそでしょう!?

 

まだ15時15分ですけれど!?

 

 

引っ張れば落ちるロリータジーンズ。黒いTシャツ姿ですよわたし。

それでもって、眉 毛 な い ん だ け ど。まだ描いてないから。

 

玄関の戸は開いてあるからと言ってあるのでもう、

ぴんぽーんの次の瞬間に玄関の戸は開いて、彼はそこにいるだろう。

エスパーじゃなくても千里眼じゃなくてもわかる。

 

早いねーww'`,、('∀`) '`,、

 

と云いながら、大きめのバスタオルでニカブスタイルになりながら

出迎える。

 

「あ、まだ風呂上がったばっかりでした?」

「そうなんです。ちょっと待っててね。」

 

オトコをソファに座らせ、洗面所へ急ぎ顔の続きを作ろうかと思うが、

緊張して顔どころではない!

何をすればいいかがわからない!!

完全にパニックである。

 

最初の配偶者が、最初に暴力事件を起こして警察のご厄介になった時だって

こんなパニックにはならなかったのに。

いや、あの時はむしろ冷静だったか。

110番に「来るのが遅い!さっさと来い!」と催促の電話を何回もかけ

「奥さん、旦那さんもう無理だから逮捕するよ?」と聞かれ

「当たり前だろう!さっさと連れてってくれ!もう二度と戻してよこさないで!」

と言ったぐらいだから。

 

愛人がたかだか15分早く家に来ただけでなぜこんなに慌てているんだろうか。

意味がわからない。

 

なんだかよくわからないまま、約束の15時30分には何とか着替えまで済ませた。

 

そして、今回の飲み会に行くにあたり、

めちゃめちゃ空気の読めない新人を、誘うか誘わないかどちらなのだろう?

という話題になった。

オレ等が、じゃぁ一回家帰りますー。と言って会社を出た時に

そいつは居たのだ。

前々から、自分も誘って欲しいという雰囲気バリバリで…。

でも、オトコはそいつが嫌いだったので一緒に行くのを嫌がった。

「アイツどうしたんだか社長に聞いてみてくれない?」というので、

社長にLineをし、新人が居るかどうか尋ねると

「いるんだよね・・・どうしよう。」

と。

すると、オトコが

「お金あるんだったら一緒に行くか?って聞いて、

無いつったら、ああそりゃぁ残念だったね。って事でいいんじゃないの?

どうせお金ないの分かってるんだし。」

と、ナイスな事を言い出したので

その旨社長に伝えると

「・・・誰がいうのー?」

こ、こいつは…。

 

社長も、新人が嫌なのはよくわかっている。

 

その後、社長から「電話してもいい?」とLineがきたので

「いいよ」と返信。電話が来る。

 

新人の扱いについてどうするか話していると

オトコがヒタリと擦り寄ってきた。

電話の音漏れで社長が話している事を確認するオトコ。

オトコの顔が、スマホとオレの顔の間に割って入る。

口を口で塞がれる。

もう社長の話どころではない。

 

一度、顔と顔が近づくとオトコの目が変わるのだ。

オレを見下ろすその目は、オレの目を通して見ると蕩けるように見える。

それを見上げるのが現在、何よりも芳しい光景だ。

この、目が欲しいのだ。

視線が心に刺さる。

 

オトコが、本気なのか遊びなのか

オレが、本気なのか遊びなのか

 

それは、誰も知らない。

オレも知らない。

 

本気ってなんだろう

遊びってなんだろう

好きってなんだろう

愛死天流って、暴走族用語ですか?

 

 

重なった唇が湿った音を奏で部屋に響く。

 

 

もしかしたら、電話口から社長に聞かせたいのかもしれない。

そういう事が好きそうなオトコ。

オレもオトコも性格がいい方では全くない。

 

社長が、

「うーんオレはいいとしても、イヤ、よくないけども

だって新人来たら嫌でしょう?」

と、オトコがオレの家に居ることを知っていて、

そしてオトコが新人が嫌いという事を知っていて、聞いてくる。

「代わってみますね。」と言い、

電話をオトコに渡す。

 

また同じ話を繰り返す社長。

オトコにされたのと同じようにして、

オレがオトコの口を口で塞ぐ。

 

新人が来ようが来まいが、最初っからどうでも良かったオレは、

ますます電話の内容などどうでもよくなった。

よきにはからってくれ。

 

オトコの顔の細い線に水をすくうように手を添える。

 

指と指の隙間から、熱い空気がすり抜けていく気がした。

 

 幸せや愛情というのは一番最初に意識して見つめ合った時に

満タンに詰まるものだと思う。

それから少しづつ少しづつ、

その湛えに僅かに含んだ恋慕の情をも抱き込んで垂れ流れて出て行き

最後には跡形もなくなる。

 

よくその辺で耳にする

「一緒にいれば深まっていく愛情」というものが理解できない。

それって妥協じゃないんですか?

一緒にいれば深まっていくのは嫌悪、不信感、これじゃない感。

こうじゃないの?

勘違いに目を背けるか背けないかの差なんじゃないの?

今はまだ、満タン状態を保っている

幸せっぽいような愛情のようなもののダムがいつ決壊するのかわからない。

 

 

 

 

オトコが膝を曲げる。

 

顔の高さが一緒になる。

 

電話の向こうでは社長が新人をどうするか話をしている。

 

口は口で塞いだまま、目を閉じた。

 

オトコの顔に添えた手は頬をしっかりと捉えている。

 

目を少し開け、オトコを見つめたまま

ソファにゆっくりと座り、唇を離し、手を離す。

離した手は、何の迷いもなくオトコの首筋を這い

そしてしっかりとオトコを抱きしめる。

 

何のことはない、息継ぎがしたかっただけだ。

 

ずっと止めていた呼吸を戻す。

 

せっかく整えてきた髪が台無しにならないように

毛流れに添ってオトコの髪を撫でる。

 

首筋に口をあて、唇で首筋を挟む。

オレはオトコの首が好きだ。

本当は耳を舐めたいが、耳を舐められた時は

相手の息が獣っぽく感じるから・・・やめた。

 

すると、オトコの顔がコチラを向きまた口を塞ぐ。

 

そして電話が終わった。

 

どうやら話がついたようだ。

 

オトコがゆっくりと仰臥し

オレが上に被さっていく。

ソファには出かけるように用意した、愛用のディオールガウチョがある。

そのちょうど上だった。

オトコの背中も痛かろう。

「あ、ごめん、カバン痛いでしょう?」
「全然!全然大丈夫ですよ。」

このオトコの全然大丈夫は魔だ。

全然大丈夫じゃないのに、

あまりにも優しい声なので全然大丈夫と錯覚してしまう。

惚れたらどうするんだ。やめてくれよ。

オトコの背中の下に手を入れ、

ソファから、ディオールと501のデニムを滑り落とす。

 

上に乗るのは苦手なんだ…。

下を向くと頬の肉が重力に逆らえず下がる。

そうすると、醜さ倍してドンなのだ。

気づいてない皆さん、気づくべきですこの現実!

どんなに若くてもニュートンには勝てないわよ!頬に肉のある限り!これ現実!

手っ取り早いのは、相手の目を隠すこと。

オトコの額を撫でながら、まぶたにそっと手を置き目をつむらせてしまう。

大体の相手なら、ニュートン顔になっている事を隠すためだとは気づかないだろう。

 

昔あった心理テストで

裸で歩いていたら向こうから異性が来た。さて、アナタはドコを隠す?

そんな場面ありえねーだろ的なのがあった。

あれのオレの答えは、

ダッシュで駆け寄り、相手の目を隠す。

だった。

 

オトコの上に体重をかけないように乗り、

口を塞ぐ。

オトコの唇を何度も何度も、軽く上唇、軽く下唇・・・と挟み込む。

オトコが身を翻し、オレの上に優しく乗る。

 

そうなったらそうなったで今度もまた大変だ。

今度は逆側にニュートンが引っ張ってくるから、引きつった顔になる。

こうなると厄介なのだ。

唇が離れてオトコが見つめてきたらば、サッと腕で鼻から下を隠すようにする。

・・・これは無駄な努力で、だいたい引っぺがされてしまう。

今回も引っぺがされてしまった。

夜、真っ暗なホテルでならまだしも

今は日中、ど日中15時たぶん45分ぐらいだ。

もう、どーしようもない。

少し頭の天辺を持ち上げて、

間違っても二重あごっぽくならない角度(だいたい斜め75度ぐらい)に構える。

オトコの頬に両手を添え、恥ずかしいからあまり見ないで。と唇だけで話し

オトコを見つめたまま、また口を塞ぐ。

 

少しの興奮と、二人の間に滞った熱で、絡めた舌が熱い。

 

オトコが少し笑いながら

「どうしよう。ヤりたくなってきました。」

 と云う。

 

でしょうね。と思いつつ、

笑う。

 

「今しちゃいます?」

その言葉に照れて笑うオレ。

なんてったってシラフだ。もう何も云えない。

酒が入っていない状態でこのオトコと話すのが非常に苦手だ。

理由は解らないが尋常じゃなく緊張して変な汗が出て顔が紅潮する。

こんな事今までに無かった。

よほど苦手なのだろうかもしかして…

 

「後からにします?」

微笑みかけるオトコ。

視線を軽く泳がせてから軽く首を振り、

視線をゆっくり下に向け

ゆっくり瞬きをし、オトコを見つめ直す。

少し身を起こして

オトコの口を塞ぐ。

 

オトコが優しく微笑みながら

「ここで?」

と、囁く。

 

 

ここは居間のど真ん中、カーテン全開、陽も光々。

「・・・あっち、行きましょう。」

 

 

(タァァァアァ寝室掃除しといて良かったァァァァァァァ!!!)

 

 

寝室へオトコを連れて行く。

 

 

「綺麗にしてますねー!」と、オトコ。

そうなんですよ、風呂に入る間も惜しんで、片付けたんですよもうほんとにえーもー!

何のためなの念の為に!!! 

 

 

寝室のカーテンを閉めるオトコ。

オレは自分のベッドの布団をはがす

 

 

と・・・

 

おい!!!!

 

誰だよ人の布団の中に寝てた猫は!!!!

 

暑くないのか!!

 

毛だらけだよ!!!!!

 

コロコロを取りに居間に戻り、コロコロでベッドを掃除する。

 

もうね、女子としてどうなのかと思われたんじゃないかと思って

 

ハラハラ・ドキドキにこにこぷんだよ!!もう!

 

オトコの家も猫がたくさんいるっていうから・・・たぶん、大丈夫

ってことにしておこう。

 

 などと考えているうちにオトコに身体を倒され

軽くベッドでバウンドする。

オトコの顔にまた手を添え何度も唇を重ね

舌を絡める。

 

…絡めた舌には愛情でなく戸惑いを乗せていたと思う。

 

 

オトコがオレの胸に墜ちていく。 

オレの息が、すこし乱れた。

 

オトコのズボンを足で下ろし

自分のズボンも脱ぎ捨てる。

 

また唇を合わせ

オトコの首に両手を回し引き寄せる。

 

 

 

「入りますか?」

 

 

「たぶん…大丈夫だと、思います。」

 

 

 

 

オレの身体がすこしのけぞる。

 

 

オトコの短いため息が聞こえた。

 

 

 

「痛い…ですか?」

 

 

「…大丈夫ですよ。」

そう云って笑顔を作った。

 

「オレ等、サカリついてますね」

オトコが微笑む。

 

「ですね。」

オレが微笑む。

 

 

 

身体が揺れ、少し腰が浮く。

 

 

オトコの上着の肩を握りしめていた手が震えた。

 

顔を隠す為に覆った腕を剥がされる。

 

息の終わりに、下から押された圧力で肺から漏れた音が乗る。

 

息と息の隙間でオトコの名を呼びたい気分になったが

こういう時に、このオトコを何と呼べばいいのか思いつかなかった。

 

息の終わりに乗った音がその刻み方を

細かくし始めた頃

オトコが少し顔を歪めオレの上着を捲し上げる。

 

 

オレは軽く握った裏拳を口で噛み目を閉じる。

 

 

「イっていいですか?」

 

 

「どうぞ」

 

 

早くなる息遣い。

 

瞑った瞼に少し力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

時間が迫っていたから、

化粧直しなどできそうになかった。

 

「この顔で、大丈夫でしょうか?」

オトコに聞く。

 

「大丈夫、いつも通りですよ。」

 

 

「アイライン引いてないんだけども…

 

どうせ、取れちゃうんだから、要らないよね。」

 

と云うと

 

オトコは

 

「そうですね。」

 

と、整った白い歯を覗かせて

 

まるで少年のように笑った。

 

 

 

 

祝儀エフェクト

昨日、副業に行った。

月に一度、本業の帰りに寄り、ちゃちゃっと数時間仕事をするだけの業務内容。

この会社、今の会社の前に勤めていた会社でフレックスタイムの勤務だった。

仕事量が少ないから、当然給料も少ないわけで…

 

・・・あれは今から数年前。

ヤツが突然言い出した。

 

「アンタさー、働く気あるの?」

 

「・・・・」

 

(何様!!)

 

この時何と応えれば良かったのか。

 

山岳崩壊後の今なら

「フレックスタイムの勤務は労働には当りませんかそうですか一応扶養範囲内ビッタリになるようにしてるんですけどねてか貴方様結婚する時おっしゃいましたよねアンタが飲む酒代だけ稼いでくれればあとはこちらで面倒みますから大丈夫ですって言いましたよね別にそれに甘える気は毛頭ございませんでしたが何なんでしょう働く気あるのって」

と、応える。間違いない。

 

だがしかしあの時のオレはゆうしゃLv.1だった。

そうびひんは、たびびとのふく、スライムからくすねたむぎわらぼうし

そんなもんだ。役に立つものなど何も持っていない。

何も言えない。

意を決して

「あるよ」

と三文字答えた。

 

ヤツは、フレックスタイムを「効率が悪い」と云う。

そうか?

時給1200円。オレ。

会社行ってその分稼いで、家帰って家事やってトメの飯をこさえる。

何か不満でも・・・?

効率が悪いって、ヤツの時給はいくらか自分で知っててそんな事が言えるのか。

ちりも積もれば山となった給料じゃねぇのか。

給料額にアヤつけるわけじゃない、

「効率が悪い」という言葉にオレは噛み付いているんだ。

 

そんなこんなで、正社員の仕事を探し面接する日々になる。

某印刷会社に行ったらば

寡婦じゃないとダメ。

と云われ、彼氏連れで面接に来た子持ちの女の人の話を延々とされ、

フロッピーディスクは扱えますか?」という意味不明な質問をされた。

作れませんが扱えます。と応えるのが精一杯で

約二時間自分の会社では、働きに来た人にこんなに良い待遇をするんですよ的な

自慢をされ、さようならとなった。

後日、その会社はご倒産なされたそうだザマー。

次に面接に行った医院。医療事務。

未経験者歓迎じゃないなら、未経験者歓迎と書かないで欲しいという、、、

まぁ、そういう事だ。

 

そんなある日トメが、

「社長(トメの愛人)の会社で働いてくれない?」と言い出した。

断れますか?

断れませんよね。

ということで、トメの愛人の会社に行くことになった、とヤツに伝えたら

「ええ!?大丈夫なの!?正社員だと時間縛られるじゃん、家事とかどうなるの

洗濯は3日に一回になるの!?」などと狼狽え始めた。

アンタ、週末以外帰ってこないじゃないのよ何でそんな文句思いつくの。

フレックスタイムで働いていれば働けと云われ

正社員で働くと云えば働くなと云われる。

こういうのを嫌がらせと云わず何と云えばいいのか。

 

・・・仕事に逃げれるというのは、本当に良い手段だと思う。

なにもかもが「仕事だから」で許される。

オレはその免罪符を手に入れた。

それになにより「仕事」をすることがオレは好きな人間なのだ。

 

トメの愛人の会社に正社員として就職したオレ。

フレックスタイムの会社に辞めたいんだけど。と伝えた所

「いやいやいやいや!ソレは困る!!

給料の計算と帳簿付けだけはどうしてもして欲しい」

と、粘られた為、じゃぁ月一で仕事しに来ます。という約束になった。

 

正直、行きたくなくて行きたくなくて行きたくなくて

行きたくなくて行きたくなくて行きたくなくて仕方なかったが、

ほどなくして「仕事だから」と家を開けれるに加えて

家事から解放される自由に心奪われ、行きたくて行きたくてしょうがなくなった。

 

そして月日は流れ現在に至っているのだけども、

昨日「そういえば、家建ててるんですよね?もう完成しました?」

と、専務が話しかけてきた。

「ハイ、もう引っ越しも済みました!」と応えると

「おめでとうございます。」と、

なんと、新築祝いをくれた!!!!

月一でしか行かないオレの為に新築祝いをくれたのだ!!

なんだかんだで気にかけてもらってはいたけれども、

従業員という括りではないようであった、かといって

取引先でもない、非常に微妙な立場のオレに、新築祝いをくれたのだ!!

今日のこの記事はこのことを書きたかったんだ。

 

新築祝いを手に入れた!! 

 

勤続5年、毎日通うトメの愛人の「会社」からは何ももらっていないのに!!!!

 

オレが就職してほどなく、トメの愛人は会長に就任、

現社長が新築祝いでビールを持ってきてくれたが

会長はただ口を出すだけだったのだ。

「あの家の間取りでは、中庭に池を作ってはいけない場所が悪い・・・・・・」

(作りません何があっても。)

建ててる最中は

「方角を見て決めろ!いいか方角というのはなぁ・・・・・・・・・」

と、方角が書いてある冊子のようなものを渡された。

「今が一番楽しいだろう、二人で間取りを考えたり何だり。・・・・・・・・」

(あれほどの地獄はありませんでした。

あれでほんとにトドメさしたようなもんです。)

「オレの家というのは、こういう間取りになっていてナァ、大工が勝手に建てたんだが、悪いことが重なった。そこでオレが、ここの廊下を塞いでここをこうしてこうしたら、悪いことがピタッとやんだんだ!どうだオレは凄いだろう!!HAHAHAHAHA!!!」

(・・・ご同居のご親族様、さぞかしご大変だったでございましょうねぇ)

などから始まり、結局は延々と自分の自慢話に花が咲く。

自分以外はすべてカスと思っているので、人の気持ちなど何も考えず

御託を並べ始める。

気持ちが沈むようなことを選んで口にする厄介な男なのだ。

「〇〇株式会社、あそこはなァ、社長の母親が亡くなった時、

オレは葬式に行ったんだ。

でもなぁ、オレの母親が死んだ時、あっちはこなかったんだ!!!!!

あれは義理を欠く人間なんだ、ろくなもんじゃない!!!」

・・・10年も前の恨みつらみを吠える。

その〇〇株式会社さんというのは、

ほぼ取引がなく…同じ地方に存在するというだけなのに、

ノコノコと社長の母の葬儀になど出向くからそういう事になる。

電報ぐらいにしておけば良かったものを…。

その〇〇株式会社は、ヤツの会社なのである。

うちの会社など足元にも及ばない大会社だが、この前M&Aされた。

 

ヤツの会社からは、社長・互助会からお祝いを貰っている。

 

ひとつ書いておきたいことがある。

オレはお祝いが欲しいのではない。

そりゃ、貰えれば嬉しいけども。

 

どこからも貰わないのなら何の気にも止めないこと。

だけども、心ある誰かは祝ってくれる。そうすると

こっちはくれたのに、こっちはくれない。と要らぬランク付けが始まる。

「ああ、この人はくれないんだな。なんて思いませんよぉ~ww」

なんて事オレは云わない。

スットレートに、「一番身近である立場の人間であるこいつ。

口ばっか達者で、礼儀だ仁義だって意気がるくせに、

いざとなると何もくれねぇんだな。」って思う。

 

 だから、祝い事は嫌いなんだ。

 

 

帰ってくる。

「今日、車の調子悪いから帰るから」

・・・

あ、そう。

 

そう。

 

そう。ってしか言葉がない。

 

今朝仕事に出て行ったと思ったら今晩帰ってくるわけなんですね。

てか、どうしよう。猫の為にエアコンつけてきたんですけど。

・・・ふふふ。でも今日の自分は冴えている。

きっと虫のインフォメーションだ。

オフタイマーというそれはそれは便利な便利なボタンを押してきてあるのだ!!

オフタイマーが先か、ヤツが先か。

・・・自分は今日は副業が入っていて

オフタイマーとヤツよりは確実に遅くなる。

 

しょうがない・・・自首しよう。

Lineを送る。

「オフタイマーはついていますが、エアコンがついていますのでヨロシク。」

 

何についてヨロシクなのかが不明である。

 

するときた返事。

「…そうなんだ。」

「これから3時間ぐらい修理にかかるんだ。」

 

ジーザス!!!!

これこそ墓穴!!!

 

これから3時間って事は、ヤツが帰るのが19時ぐらい!

オフタイマーは17時に作動じゃないの!!

 

また余計な事をやってしまった。

 

帰ったら、エアコンはいつもつけているのどうなの窓を開けていければいいんだよねんじゃぁそのようにしなくちゃいけないよね

とか何とか言ってくるんだろう。

 

めんどくせぇ・・・。

 

温度感覚、水道光熱費感覚が合わないならではの緊張感だ。

常にヤツが神で、自分は常に浪費堕落者の立場になる。

 

これについては仕方ないと思う。

二人共、正社員とはいえ、ヤツは自分より1.5~2倍程の稼ぎを持ってくる。

収入格差は、家事という労働と譲歩という気持ちで埋めるしかないのだ。

同僚のおじちゃんに、そう愚痴ったらば

「それは違う!!」

と断言してくれた。

違うもへったくれも無いんだ我が家は。

おじちゃんがあと20歳若かったら、おじちゃんと結婚しても良かったかもだよ。

・・・いや、それは無いな。

 

いつからだろう?

ヤツが帰ってくるっていうとテンションがだだ下がりになるようになったのは。

仕事柄週1しか帰ってこない人と結婚して7年ちょい。

その間ずっとトメと二人暮らし。

ある時、自分の中のキラウエアが噴火して家を建てることを決めて

家建てて。

引っ越して。

そしたら、こんどはセントヘレンズが山岳崩壊起こして何もかもが嫌になった。

 

100匹以上の猫かぶって生活してきた、それに無理がきたようだ。

結婚を機にやめたあれやこれやを全部復活させたくてしょうがない。

ふっかつのじゅもんがちがいます」が、何度か頭のなかに流れたが、

最近、ふっかつのじゅもんが見つかったというワケである。

 

今日は朝から「あなただけ見つめてる」がオレコンヒットチャート一位を独占中。

 

あなただけ見つめてる出会った日から今でもずっと

(↑大きな勘違いでした)

あなただけそばにいれば他に何もいらない

(↑そんなことはありません)

夢のハイテンション

(↑悪夢のローテーション)

 

結婚はこれで2回目だが、今回の結婚の終了後は二度と結婚することはないだろう。

そう、何回やってもダメなものはダメなんだ。

1回目は、チョット悪い人で何度も留置所に迎えに行ってもう嫌になった。

2回目、今回は、ふっつーの人で、ふっつーに働く人と思ったが、

普通なんてドコにも無いことを学習するという過程を経て、現在9回の裏だ。

 

職業、ある。

とても仲の良い同僚、沢山ある。

配偶者、ある。

一戸建(ヤツ名義)、ある。

親に若干の借金(ヤツ名義)、ある。

愛人、ある。

 

あるものだらけだけども、実際なにもない。

幸せがない。

 

自分が、他人に愛される性格をしていないのが嫌というほどわかっているため

猫を100匹以上かぶって、騙して結婚したわけだけども、

三つ子の魂百までって昔の人はよく云ったもので、

所詮無理な話だったのだ。

 

子供のためと割り切れば生活も楽だろうが、

おあいにくさま、子供が居ない。

 

女として一番輝くべく時に、トメと二人暮らし

トメの愛人の会社に就職させられ動向を監視され

無報酬のお手伝いさん生活をしてしまった。

それも7年というロングラン!

メリー・ポピンズとほぼ一緒!

それだというのに、

その生活で出た成果がない!

何も残っていない。

夢も、希望も、

自分名義の預金も、

肌の艶も、ハリも。

 

 

17時になったから、副業に出かけよう。